丁子屋

和の企業研修

新しい試み 〜和の企業研修〜

2021年ご縁を頂戴して、新しい試みとして、和の文化に触れていただく企業研修をスタートすることができました。
5月某日、銀座にある金融系企業様へ。福利厚生の一環として和の文化に触れる機会を作りたいとのご依頼でした。これまで小さな研修は何度か行ってきましたが、改めて一から構築して臨みました。

以前、外資系ホテル様にて接客サービスの研修を行ったことがあります。その際のお悩みは、「部屋に準備されている寝間着としての浴衣のまま、外へ出てしまう外国の方がいらっしゃいます」とのこと。「外出できる浴衣と外出できない寝間着の浴衣について、違いをどのように説明すればよいのでしょうか」というお悩みでした。コロナ後には日本を旅したいという海外のお客様が多いようですから、切実かもしれません。

老舗呉服店の丁子屋にとっても、海外の方だけでなく日本人にも、着物を入口として和の世界に関心を持っていただくにはどうすれば良いのだろうという課題意識が常にあります。店頭で、ただお客様をお待ちするのではなく、着物や和の世界とは無関係な毎日を送る方々に対して、何かきっかけとなることができれば、200年以上も続いてきた老舗呉服屋としての使命を果たせるのではと考えていました。

丁子屋は2020年2月より虎ノ門ヒルズビジネスタワーに移転して営業をしています。2019年末にHPをリニューアルし、リブランディングを進める中で「和の色とは、心の色です」ということをお伝えしています。
そのため、今回は「千年前から現代へと続く着物~日本人が磨き続けてきた和の感性。心色と共に」というタイトルで、講義を六代目の小林絵里が行い、実習は丁子屋の人気着付け講師である清水先生と岡田先生で担当しました。

受講された皆様にとっては、日頃の業務と無関係な着物に関する講義。そこから何を得て、何を学ぶかは人それぞれでしょう。
「着物についてどこまで知っていますか?」というクイズ形式の質問から始めました。男性よりも女性の方がよくご存知でしたが、「着てみたい」という気持ちがあるのもきっと女性の方が多いからでしょう。

着物の格についても、一通りのご説明をしました。
プライベートなシーンのおしゃれ着は細かいことを問わずとも、公式な場やお祝いの席では、お相手への敬意も込めて格が大切です。
浴衣が夏だけである理由や、男性の正装に必ず羽織が必要な理由など、身近で素朴な疑問にたくさんお答えしました。海外の方から質問されたときにも、日本人として躊躇なく理由を答えられたら素晴らしいですよね。

千年もの間、日本人はほぼ形の変わらない「36㎝×1140cm」の反物から衣服を作り出してきました。自然の素材から糸を紡ぎ、織り上げ、染め上げた反物を仕立てること。それは、日本人の誇るべき手仕事から生み出された芸術だと思います。
パターンで布地を切り取る西洋の洋服とは異なり、着物は裁断した時に“ハギレ”がほぼ出ません。卓越した仕立て師が、体型に応じて可能な限り、隠れた部分へ布地を縫い込んで仕立てるからです。いつでも1枚の反物の状態に戻せるため、体型に合わなくなった場合も、仕立て直すことで何度でも同じ「キモノ」という形状へと甦ります。古くなった場合、汚れが目立つ場合には、見えない部分に隠してしまえばいいというわけです。絹は、最後に“ハタキ”へと姿を変えて、生涯を終えました。日本人は、昔からSDGsの視点を持ち生活していたのですね。

次に日本の和色名について。
受講者の皆様で視聴されている方は少なかったようですが、今年の大河ドラマ「晴天を衝け」(NHK)で、主人公の渋沢栄一は埼玉県の血洗島・藍染め農家の生まれです。藍染めは日本人にとって最もポピュラーな染色で、昔は阿波(徳島)を中心に、蓼藍(藍のもとになる植物)の栽培が日本中で行われていました。
日本で「青色」が指す範囲は広く、スカイブルー、といった洋色名の方が馴染み深いかもしれません。日本には昔から「青」を識別するための呼び名が沢山あるのですが、和色の名称は、今ではほぼ使われることがありません。日本人は古来から微妙な色合いに名前をつける事によって、色そのものを感性のもと呼び分けてきました。「日本人にとって、色は心の色」なのです。

最後に実習です。
実際に浴衣を着用していただきましたが、年齢を問わず、皆さん盛り上がった瞬間です。着物を着ることでしか感じられないものを実感していただけたのであれば、丁子屋として幸いです。
何となく知っているようで知らないことの方が世の中には多いものですが、和の文化も日本人のルーツ知恵を知ることの一つ。日常生活に役立つことはなさそうで、意外と役立つ。仕事とは無関係に思えますが、意外とそうでもありません。21世紀を生き抜くヒントが詰まっていますよ

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