紬で、和服をもっと身近に【前編】
紬は、カジュアルな日常のお着物ですが、街の鮨屋さんなどちょっとしたお食事にも行ける便利さがあります。丁子屋は、オリジナルの紬から、伝統的な紬まで、3種類の紬をご用意しています。
【丁子屋オリジナル紬】
「紬の出番を増やしたい。」
着心地の良い紬を、日常着としてもっと気軽に着てもらいたいと考え、創立百周年(平成19年)の節目に開発したオリジナルの紬です。五代目女将吉井恭子が、紬の産地・越後へ赴き、草木染めの真綿紬糸を用いて「丁子野紬(ちょうじのつむぎ)」を創作しました。かねてより丁子屋は別染め加工を得意としてきましたので、お客様に大好評をいただいて以来、品質の高いオリジナルの紬を看板商品としています。
2020年の新店舗移転に伴い、再び生産地へ赴き、紬創りに挑戦。「ちょうじつむぎ」と名付けました。紬の魅力は、暖かくて丈夫。普段使いに最適です。また、縞や格子柄、江戸小紋風の織柄まで幅広いデザイン性があることから、活用の幅も広いのです。そこで、お茶会や芝居見物にも着ることができる紬でありながら、雨の日の外出も苦にならないという、おしゃれさと便利さを両立させた開発をいたしました。今回は、糸選びの段階で、真綿紬糸の分量を少なめに設計し、生糸の光沢と軽さを表現しました。モダンさを追求した格子柄や、近くで見て初めて縞だと分かる江戸小紋風の紬など、これまでの紬に対するイメージを変えることにトライし、長年抱いてきた理想の紬を実現しました。一度、反物に触れて、紬糸の感触をお楽しみください。
◎模様の種類
丁子屋らしい色彩に、伝統と現代感覚を融合させた織柄です。
小紋に近い感覚でお召しになれます。
・水玉
ちょうじつむぎのシリーズのなかでも、ポップで可愛らしい紬です。洋服感覚でお使いいただけると思います。織ですが、小紋の感覚でおしゃれにお召しください。
・段ぼかし
縦か緯(よこ)、あるいは両方に、地の糸よりも太い糸を織り込むことで、その部分を浮き上がらせた紅梅織の格子地を段ぼかしに織り上げました。艶感があり、よそいきのお着物に選びたい紬です。
・矢羽根絣
伝統的な縦絣の織物です。縦糸を「吊り染め」という技法で絣部分を染料に漬けると、糸が自然に染料を吸い上げます。ぼかし風の縦絣糸が出来上がり、千本以上の縦糸を上下に操作しながら矢羽根絣の柄を形成します。少し大胆に、柔らかいぼかし味を強調しまし、モダンに仕上げました。
・万筋(まんすじ)
江戸小紋のような万筋を織物で表現してみたいという思いを、丁子屋のオリジナル紬として実現しました。縦縞の色に対して緯(よこ)糸の色と濃度が、仕上がりに重要な影響を与えます。縦糸と濃度の近い同色系の緯糸で織ると、柔らかい無地風に。一方で、反対色の緯糸を組み合わせると玉虫色に見え、縞模様がうっすらと浮かび上がります。
・独鈷(どっこ)柄
絣柄と無地部分の巾の微妙なバランスが粋で、個性的な着姿を演出します。無地の部分は生地巾の約15%と狭く織り上げて、仕立ての段階で丁子屋独自の感性で配置します。縦、緯(よこ)それぞれぼかしと摺り込みで染められる縦糸と無地糸の組み合わせで織られた独鈷柄は、職人たちの優れた技術も込められています。色は、定番の紺のほか、2019年の創業祭より、新たに茶色と黒を発売しています。
・市松(いちまつ)柄
日本の古典柄でありながら、西洋の文様にも通じるモダンな柄です。縦、緯(よこ)それぞれぼかしと摺り込みで染められる縦糸と緯糸の組み合わせで織られた市松柄は、染めの糸のシャンパンゴールドのような市松のあでやかさに対して、粋でおしゃれな雰囲気を醸し出します。
・網代(あじろ)
縦糸と緯(よこ)糸、それぞれの色糸を、配列に智恵と工夫を凝らした、市松模様に見える伝統的な柄です。昔から織を極めた先人たちにより考案されました。丁子屋が創業百年の記念作品として発表して以来、新しい色彩を取り入れながら、多くのお着物ファンに支持を得ています。